コラム

2024/03/01
M&A仲介業者の問題

M&Aトラブルに関するご相談で多いのは、表明保証違反に関するものです。すなわち、売主が表明保証した事実が、クロージング後に事実と異なるものであると判明し、補償請求を検討せざるを得なくなるといった内容です。

売主としては、安易に表明保証するのではなく、ディスクロージャー・スケジュールを活用して、事後の紛争予防に備える等する必要がありますし、買主としても、DDの結果、不明瞭な問題点が発覚した場合には、これを指摘の上、場合によっては、サンドバッキング条項を設ける等の対策を取る必要があります。

しかし、中には、売主や買主の責任ではなく、M&A仲介業者の責任ではないかと思わずにいられない事案も少なくありません。

 

事業承継や創業者利益の確保、その他色々と理由はあるでしょうが、皆さんが自社を売却する場合(話を中小企業に限定します。)具体的にどうされますでしょうか?

最近では、ネットでマッチングサービスを提供するようなサイトもあるようですし、あるいは、商工会議所に相談される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にM&Aを遂行する段階となると、専門的な知識やノウハウが必要となり、そして何よりも、適切な買い手を探す必要が生じますので、多くの場合は、M&A専門の仲介業者を頼ることになるのではないでしょうか?

 

これまたネットで検索すると、数多くのM&A仲介業者が出てきます。中には上場企業もあり、従業員が高給取りであること等でニュースとなったりもしています。

 

さて、これらM&A仲介業者は、はっきり申し上げますと、乱立しています。なぜなら、M&A仲介業者となるために何か特段の免許や資格が要求されるわけではないからです。極論すれば、自らがM&A仲介業者であると名乗りさえすれば(法人の場合は定款の変更が必要でしょうが)、誰でもM&A仲介業を営むことができるのです。

そして近年、中小企業経営者の高齢化が問題となり、後継者探しからM&Aの需要が高まったことから、中には、要求される水準の資質や能力のない者までもが参入し、仲介料目当てに杜撰な業務を行うということが散見されます。参入障壁が低く、1件当たりの対価が大きいことから、このように問題のある業者が跋扈しています。

 

そもそも、かかるM&A仲介業には、構造的な問題があります。というのは、我が国におけるM&A仲介業者は、売主と買主の双方における仲介を行い、その双方から報酬を得ているのです。当然、買主は安く買いたい、売主は高く売りたいとの意向があるわけですが、M&A仲介業者にとっては、売主は一見さんであるのに対し、買主は、成長戦略の一環として企業買収を行っているわけですから、リピーターとなる可能性のある「上客」です。

したがって、買主にとって有利となるようにM&A仲介業者が動く(特にバリュエーションの場面で)といった可能性が潜在的に存在します。このような利益相反関係が内在されている取引ー両手取引ーと呼ばれますが、これは海外ではあまり見られないものと聞きます。

 ちなみに、M&A仲介業者と似た存在として、FAというものがあります。FAとは、ファイナンシャル・アドバイザーの略ですが、M&A仲介業者と異なるのは、FAは、基本的には、売主又は買主のどちらか一方の専属であるという点です。

 

さて、M&A仲介業者に関しては、以上のような双方代理に起因する利益相反の問題もありますし、質の悪い仲介業者が自己の利益を優先して件数をこなそうとするあまり、杜撰な業務を行う場合もあります。私が過去に取り扱った表明保証違反に起因する訴訟事件についても、M&A仲介業者が問題のある業務を行ったことが原因ではないかと思われる事案がありました。そのような場合、仲介業者に事実の確認をしても、大概自己保身に走り、不誠実な回答しかしてこないものです。当該仲介業者に対しても法的責任を問えないか、何度も検討したものです。

 

すなわち、M&Aを検討されている皆さんが注意しなければならないのは、M&Aの相手方を選ぶ以前の問題として、M&A仲介業者をじっくりと選定する必要があるということであり、また、M&A仲介業者を選んだ後も、おんぶに抱っこで全て任せきりにしていると足元をすくわれるということです。あくまでも売主・買主が、それぞれ強い当事者意識をもって案件に対応する必要があるということは、言うまでもありません。

 

このように、M&Aには、売主・買主以外にも、M&A仲介業者という第三の登場人物がおり、その全てが誠実な業務を遂行しているとは限らないという実態があります。

 

当事務所では、M&A仲介業者に関する問題についても、ご相談をお待ちしております。

M&Aトラブルでお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

2024/02/28
判例紹介

<東京地方裁判所平成18年1月17日判決>

 

消費者金融会社の企業買収(M&A)における売主の表明保証違反について、売主が買主に対して損害補償義務を負うとされた事例です。

 

この判決の重要なポイントは、表明保証の対象について悪意又は重過失の譲受人は、当該対象が事実と異なる場合であったとしても、補償の請求ができない余地があると判断している点です。

 

すなわち、株式譲渡契約等において、買主が売主の表明保証の内容が正しくないことを知りながら、取引をクローズし、クロージング後に売主に表明保証違反に基づく補償を請求することは、サンドバッギング(sandbagging)と呼ばれていますが、上記判例は、この点につき、株式譲渡契約締結時において、売主が表明保証を行った事項に関して違反していることを買主が知らないことについて重大な過失があると認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、売主は表明保証責任を免れると解する余地がある旨判断しており、買主がこれらにつき悪意である場合には、当然として表明保証責任を追及することはできないとの立場であるように読めます。ちなみに、「悪意」とは、法律用語で、「知っている」という意味です。

 

ただしこの点、同判例は、「企業買収におけるデューデリジェンスは、買主の権利であって義務ではなく、主としてその買収交渉における価格決定のために、限られた期間で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外債務の発見)という限られた範囲で行われるものである」と一般論を述べた上で、売主が買主に対して表明保証違反に当たる事実を故意に秘匿したという当該事案固有の事情を理由として、買主の重過失を否定して、売主の表明保証違反を認めたものです。

したがいまして、表明保証違反責任を追及する際の買主の主観的要件としてこの判例を根拠とする説明がよく見られますが、上記判示はあくまでも傍論に過ぎず、またそのように解すべき法律上の根拠も明示されていないことから、先例的価値については慎重に検討する必要があるとの解説も見られます。

 

なお、株式譲渡契約書にサンドバッギング条項(売主の表明保証違反事実について買主が認識を有していたこと又は知り得たことは、買主による売主に対する補償請求等に影響を与えない旨の規定)が明記される事例が増加していますが、これまでに当該条項の有効性について判断された裁判例はありませんので、かかる条項を明示的に設けたからといって同問題を確実にクリアできるとは限らず、依然として解釈問題である点には留意が必要です。

 

M&Aトラブルでお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までお問い合わせください。

 

2024/02/08
ご挨拶

ご覧いただきありがとうございます。

過去に企業内でM&Aの案件に多く携わっていたこともあり、独立して法律事務所を構えた後も、M&Aに関するトラブルのご相談をしばしば頂戴しておりました。

近年そのようなご相談が増加傾向にありますので、この度、「M&Aトラブル相談センター」と銘打ち、専門のHPを立ち上げさせていただく運びとなりました。

随時情報を追加していく予定ですので、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

弁護士 中川内 峰幸