コラム

2024/06/11 NEW
買主が経営者保証の解除手続きをしてくれない問題

(※ 当事務所メインホームページの弁護士ブログに掲載した内容ですが、M&Aトラブルに関する記事でしたので、一部修正の上、こちらにも掲載させていただきます。)


先の朝日新聞の報道(「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」/藤田知也記者)でも見られるように、悪質な業者がM&A取引の買主となった場合、当初の約束とは異なり、M&Aのクロージング後になっても、売主の経営者保証を解除する手続きをしてくれないというケースがあります。

売主としてみれば、株式を手放し、対象企業の経営から離脱したわけですから、経営者保証も当然買主側に承継してもらわなければ困るわけであり、当然、そのような前提でM&Aの交渉は進んでいたはずです。また、通常、株式譲渡契約書の中にも、「買主は、クロージング日後〇か月後以内に、売主の別紙金融機関からの借入につき経営者保証(個人保証)の解除の手続きをする」旨の条項が入れられているはずですが、これを無視して、一向に買主が金融機関との交渉手続きを行わないという問題です。

そのままでは、万が一、対象会社の経営が傾き、かかる金融機関への返済が焦げ付いた場合、売主の個人資産が差し押さえられるおそれが生じますし、また、いつまでもそのおそれを抱いたまま不安定な立ち位置に置かれること自体が、売主にとっては耐えられぬ状況でしょう。


いっそのこと、株式譲渡契約自体を解除して、取引を白紙の状態に戻してしまいましょうか? ーーいいえ、通常、株式譲渡契約の中には、クロージング後の解除を制限する旨の条項が規定されているはずです。かつ、錯誤の主張も制限されていることがほとんどでしょう。したがって、契約の解除はなかなか困難です。表明保証違反や誓約違反がある場合に売主が採れる手法は、事後的な補償請求や損害賠償請求が原則ということになります。


それでは、買主に対して損害賠償請求ができるでしょうか? ーーいいえ、実際に対象会社の弁済が滞り、これに起因して売主の資産が差し押さえられたり、あるいは破産を余儀なくされたなどといった事情がない限り、未だ損害が発生していないということになり、同時点で売主を訴えることは困難でしょう。

買主が契約どおりの作為を行わないことにより補償請求あるいは損害賠償請求できるものは、せいぜい慰謝料程度ということになってしまうと考えられます。また、現に買主に損害が発生した後になって満を持して売主に訴訟を提起することができたとしても、損害額全額を回収できるか否かは不透明です。


このように、中小企業のM&Aでは経営者保証をめぐるトラブルが多いところ、これを事後的に解決するのはなかなかに困難であるといった実態があります。


どうすればいいのでしょうか?


株式譲渡契約書に、経営者保証の解除に関する条項を明記することは当然ですが、上に見たように、これは通常そのような契約内容となっており、それでもなおトラブルが発生するからこそ問題となっているわけです。

経営者保証の解除・変更の手続きは、売主が単独でできるわけではなく、買主の協力が必要となりますし、当然のことながら、相手方(債権者:金融機関)のあることですので、必ずこれが首尾よく成功するとは限りません。また、譲渡後にならないと実際の変更手続きができないといった事情もあります。

ですので、同問題が残存したままで契約をクロージングして、後は買主の良心に任せるといった危険な態様で取引がなされているケースがあり、問題となるのです。


きちんとするのであれば、クロージング時に、金融機関も交えて、譲渡代金の決済と株主名簿の書き換えをする際に、経営者保証の借入につき一旦買主が金融機関に全額返済を行い、売主を保証債務から解放し、併せて新規の借入を買主の個人保証のもと受けるといった手続きを同時に行うということが考えられます。


あるいは、エスクロー・アレンジメントを利用し、上記経営者保証の解除を条件として、譲渡価額の残額を支払うという内容の契約を盛り込むことも考えられます(もっとも、この場合、エスクロー・エージェントに対する報酬が発生しますので、これを当事者間でどのように分担するかという協議も必要となります。)。


なお、時々、「クロージングまではメインバンクにM&Aの話はしないようにとM&A仲介業者に言われていたことから金融機関に相談できなかった」との話を耳にしますが、その時点で当該M&A業者があやしいと気づく必要があります。取引自体が信用できないと思われたら、勇気ある撤退を視野に入れるべきです。


経営者個人保証が外れるかどうかは、売主にとって極めて重要な事項です。買主の資産状況も金融機関に伝えぬままに、ただ「責任をもって必ず解除するから安心して」という買主又はM&A仲介業者の言葉を信用するのは、危険以外の何物でもありません。


売主としては、初めてのことで何もわからぬままに手続きが進行してしまって後戻りできなかったということかもしれません。しかし、一生に一度のことであるだけに、当事者意識をもって取引に臨む必要があります。長年に渡り大切に育てた我が子のような会社の最後がこのような形に終わってしまっては、悔やんでも悔やみきれないでしょう。


以上検討しましたように、中小企業のM&Aにおける経営者保証をめぐるトラブルは少なくありませんし、また、事後的な救済はなかなか困難な問題です。

しかし、事案によっては何かしらの対処が可能である場合も想定されます。お困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお問い合わせください。

ぜひ、詳しいご事情をお聞かせください。

2024/06/08 NEW
中小企業庁『M&Aトラブル』実態把握へ、不適切行為に注意喚起

(※ 当事務所メインホームページの弁護士ブログに掲載した内容ですが、M&Aトラブルに関する記事でしたので、一部修正の上、こちらにも掲載させていただきます。)


表題の記事に触れました。中小企業庁「M&Aトラブル」実態把握へ、不適切行為に注意喚起(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース


以前このブログでご紹介した朝日新聞の記事(「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」)を受けて、中小企業庁が当該事件の実態把握に動き出したとのことです。また、実態を踏まえて、中小M&Aガイドラインの見直しも検討するとのことです。


同記事では、「中企庁は(中略)M&A仲介業者が買い手企業による契約不履行などのトラブルを把握しながら、そのことを新たな売り手側に伝えず取引を進めれば、利益相反リスクへの対応などを定めた指針に反するとしている。M&A支援機関登録制度の登録業者には指針の順守が求められており、違反すれば登録を取り消される場合がある。」とされています。


このM&A支援機関登録制度とは、2021年8月よりスタートした取り組みで、M&A仲介業者(FAを含む。)が中小企業庁のデータベースに登録される制度です。登録されたM&A仲介業者は、信用力の向上が期待されるほか、M&Aで利用できる補助金(事業承継・引継ぎ補助金)の対象案件も、同登録制度に登録された者に限るという点で恩恵があるようです。現在3000社ほどが登録されているとのことです。


しかし、同登録を取り消される程度の不利益の告知により、悪質な仲介業者が業界から一掃されるということには決してならないでしょう。そもそも、確信犯的に悪質な仲介を行っている業者は、同登録制度など利用していません。


政府は中小企業のM&Aを強く推進しているところ、このような悪質な仲介業者によるM&Aトラブルの頻発により、大きく水を差される形となりそうです。かねてより問題視されていた点ですが、早急に抜本的な対策が必要となるでしょう。両手取引の禁止や仲介手数料の上限を定めるとなると、一気に業界がシュリンクしてしまうおそれもありますので議論は慎重に進めるべきですが、M&A仲介業者の免許制に関しては、より積極的に検討すべきでしょう。免許を得た者のみが、M&A仲介に携われるということにするわけです。今は、このような制限がありませんので、ブローカーまがいの怪しい業者が跳梁跋扈しているのが現状です。・・・ちなみに、「免許」というのは講学上の用語ではなく、行政学上の分類でいえば「許可(公益上の要請に基づいて一定の行為を一般的に禁止にしておいて、これを特定の場合に解除する行為。自動車の運転免許など。)」か「特許(国民が本来持っていない特殊の権利能力や法的地位を設定する行為。電気・ガス等の供給事業など。)」に該当するのですが、本題から逸れますので、ここでは触れません。


閑話休題。


悪質な仲介業者は、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)など見据えず、高額な仲介報酬目当てでとにかく案件を成就させるだけに躍起となり、後のことは我関せずというスタンスですので、極論すれば、単なる「マッチング」を行っているだけです。マッチングアプリで出会った男女がその後どうなろうが、マッチングアプリ運営会社は責任を持たないというのと同じ発想なのでしょう。このような業者を野放しにしていては、M&A業界の発展もありえません。これを免許制としてM&A仲介業を取り扱える者を健全な仲介業者のみとすることにより、これら問題に対処し業界の健全化に資することは必須であると考えます。


中小企業庁は、M&Aトラブルに関する情報提供受付窓口を設けています。併せて、当事務所の運営するM&Aトラブル相談センターのHPからお問い合わせいただきますと、トラブル解決へ向けてのご相談に対応することが可能です。


M&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

2024/06/06 NEW
M&A仲介の罠 まやかしの事業承継

(※ 当事務所メインホームページの弁護士ブログに掲載した内容ですが、M&Aトラブルに関する記事でしたので、一部修正の上、こちらにも掲載させていただきます。)


「M&A仲介の罠 まやかしの事業承継」という朝日新聞の連載記事(藤田知也記者・全6回)を読みました。有料記事なので転載することはできませんが、興味のある方はご覧になってみてください。(連載「M&A仲介の罠」一覧 – A-stories(エーストーリーズ):朝日新聞デジタル (asahi.com))


内容としては、タイトルどおり、M&A仲介業者の問題点について警鐘を鳴らす記事であり(M&A仲介業者の問題点については、このブログでも過去に述べたことがあります。)、その点につき特段目新しいものはなかったのですが、記事が取り上げている具体的事件に強く興味を惹かれました。


すなわち、表向きは事業再生を目的とする特定の法人グループが、数多くのM&Aを用いて子会社化した企業から同法人グループへと資金移動をさせている(結果、子会社が破綻。)といった実に不可解な事例を取材した記事でした。同法人グループの代表は、現在行方不明とのことです。


しかし結局のところ、同記事では、この法人グループの(あるいは同グループ代表の)真の意図がどこにあったのかという点が明らかとなっていないことから、読了感としては、いささか消化不良のもやもや感が残る内容でした。


これは少し前に世間を騒がせたトケマッチのような、当初から計画された犯罪行為なのか(とすると、模倣犯が発生しうるのか、あるいは集団的犯罪で別に黒幕が存在するのか…同代表の行動からすると、そのような気もします。)、あるいは本当にただ自転車操業的にM&Aを繰り返して進退窮まったのか(これはあまり考えられないと思うのですが…)。全容が解明した暁には、ぜひとも続報を読んでみたいところです。


いずれにせよ、M&Aは仲介業者におんぶにだっこでは大変なことになるということの一事例であることには間違いありません。また、ある程度の売り上げがあるといっても現状で赤字に陥っている会社を購入したいと希望する者が現れた場合に、その意図を探る作業は当然に必要でしょう。M&Aを用いる事業再生は、そんなに簡単なものではありませんし、火の車の会社を引き取ってくれてかつ個人保証も承継してくれるなどという「うまい話」がそうそう転がっていると考えるのは危険です。


そして上述のとおり、M&A仲介業者の構造的問題についてはかねてから指摘がなされているところですが、M&A後のトラブルを回避するためには、売主及び買主が当事者意識をもって取引に応じる必要があるということは、このような記事で繰り返し周知していく必要があると考えます。


M&Aトラブルでお困りの方は、M&Aトラブル相談センター(シャローム綜合法律事務所)までお気軽にお問い合わせください。

2024/03/01
M&A仲介業者の問題

M&Aトラブルに関するご相談で多いのは、表明保証違反に関するものです。すなわち、売主が表明保証した事実が、クロージング後に事実と異なるものであると判明し、補償請求を検討せざるを得なくなるといった内容です。


売主としては、安易に表明保証するのではなく、ディスクロージャー・スケジュールを活用して、事後の紛争予防に備える等する必要がありますし、買主としても、DDの結果、不明瞭な問題点が発覚した場合には、これを指摘の上、場合によっては、サンドバッキング条項を設ける等の対策を取る必要があります。


しかし、中には、売主や買主の責任ではなく、M&A仲介業者の責任ではないかと思わずにいられない事案も少なくありません。


 


事業承継や創業者利益の確保、その他色々と理由はあるでしょうが、皆さんが自社を売却する場合(話を中小企業に限定します。)具体的にどうされますでしょうか?


最近では、ネットでマッチングサービスを提供するようなサイトもあるようですし、あるいは、商工会議所に相談される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にM&Aを遂行する段階となると、専門的な知識やノウハウが必要となり、そして何よりも、適切な買い手を探す必要が生じますので、多くの場合は、M&A専門の仲介業者を頼ることになるのではないでしょうか?


 


これまたネットで検索すると、数多くのM&A仲介業者が出てきます。中には上場企業もあり、従業員が高給取りであること等でニュースとなったりもしています。


 


さて、これらM&A仲介業者は、はっきり申し上げますと、乱立しています。なぜなら、M&A仲介業者となるために何か特段の免許や資格が要求されるわけではないからです。極論すれば、自らがM&A仲介業者であると名乗りさえすれば(法人の場合は定款の変更が必要でしょうが)、誰でもM&A仲介業を営むことができるのです。


そして近年、中小企業経営者の高齢化が問題となり、後継者探しからM&Aの需要が高まったことから、中には、要求される水準の資質や能力のない者までもが参入し、仲介料目当てに杜撰な業務を行うということが散見されます。参入障壁が低く、1件当たりの対価が大きいことから、このように問題のある業者が跋扈しています。


 


そもそも、かかるM&A仲介業には、構造的な問題があります。というのは、我が国におけるM&A仲介業者は、売主と買主の双方における仲介を行い、その双方から報酬を得ているのです。当然、買主は安く買いたい、売主は高く売りたいとの意向があるわけですが、M&A仲介業者にとっては、売主は一見さんであるのに対し、買主は、成長戦略の一環として企業買収を行っているわけですから、リピーターとなる可能性のある「上客」です。


したがって、買主にとって有利となるようにM&A仲介業者が動く(特にバリュエーションの場面で)といった可能性が潜在的に存在します。このような利益相反関係が内在されている取引ー両手取引ーと呼ばれますが、これは海外ではあまり見られないものと聞きます。


※ ちなみに、M&A仲介業者と似た存在として、FAというものがあります。FAとは、ファイナンシャル・アドバイザーの略ですが、M&A仲介業者と異なるのは、FAは、基本的には、売主又は買主のどちらか一方の専属であるという点です。


 


さて、M&A仲介業者に関しては、以上のような双方代理に起因する利益相反の問題もありますし、質の悪い仲介業者が自己の利益を優先して件数をこなそうとするあまり、杜撰な業務を行う場合もあります。私が過去に取り扱った表明保証違反に起因する訴訟事件についても、M&A仲介業者が問題のある業務を行ったことが原因ではないかと思われる事案がありました。そのような場合、仲介業者に事実の確認をしても、大概自己保身に走り、不誠実な回答しかしてこないものです。当該仲介業者に対しても法的責任を問えないか、何度も検討したものです。


 


すなわち、M&Aを検討されている皆さんが注意しなければならないのは、M&Aの相手方を選ぶ以前の問題として、M&A仲介業者をじっくりと選定する必要があるということであり、また、M&A仲介業者を選んだ後も、おんぶに抱っこで全て任せきりにしていると足元をすくわれるということです。あくまでも売主・買主が、それぞれ強い当事者意識をもって案件に対応する必要があるということは、言うまでもありません。


 


このように、M&Aには、売主・買主以外にも、M&A仲介業者という第三の登場人物がおり、その全てが誠実な業務を遂行しているとは限らないという実態があります。


 


当事務所では、M&A仲介業者に関する問題についても、ご相談をお待ちしております。


M&Aトラブルでお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

2024/02/28
判例紹介

<東京地方裁判所平成18年1月17日判決>


 


消費者金融会社の企業買収(M&A)における売主の表明保証違反について、売主が買主に対して損害補償義務を負うとされた事例です。


 


この判決の重要なポイントは、表明保証の対象について悪意又は重過失の譲受人は、当該対象が事実と異なる場合であったとしても、補償の請求ができない余地があると判断している点です。


 


すなわち、株式譲渡契約等において、買主が売主の表明保証の内容が正しくないことを知りながら、取引をクローズし、クロージング後に売主に表明保証違反に基づく補償を請求することは、サンドバッギング(sandbagging)と呼ばれていますが、上記判例は、この点につき、株式譲渡契約締結時において、売主が表明保証を行った事項に関して違反していることを買主が知らないことについて重大な過失があると認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、売主は表明保証責任を免れると解する余地がある旨判断しており、買主がこれらにつき悪意である場合には、当然として表明保証責任を追及することはできないとの立場であるように読めます。ちなみに、「悪意」とは、法律用語で、「知っている」という意味です。


 


ただしこの点、同判例は、「企業買収におけるデューデリジェンスは、買主の権利であって義務ではなく、主としてその買収交渉における価格決定のために、限られた期間で売主の提供する資料に基づき、資産の実在性とその評価、負債の網羅性(簿外債務の発見)という限られた範囲で行われるものである」と一般論を述べた上で、売主が買主に対して表明保証違反に当たる事実を故意に秘匿したという当該事案固有の事情を理由として、買主の重過失を否定して、売主の表明保証違反を認めたものです。


したがいまして、表明保証違反責任を追及する際の買主の主観的要件としてこの判例を根拠とする説明がよく見られますが、上記判示はあくまでも傍論に過ぎず、またそのように解すべき法律上の根拠も明示されていないことから、先例的価値については慎重に検討する必要があるとの解説も見られます。


 


なお、株式譲渡契約書にサンドバッギング条項(売主の表明保証違反事実について買主が認識を有していたこと又は知り得たことは、買主による売主に対する補償請求等に影響を与えない旨の規定)が明記される事例が増加していますが、これまでに当該条項の有効性について判断された裁判例はありませんので、かかる条項を明示的に設けたからといって同問題を確実にクリアできるとは限らず、依然として解釈問題である点には留意が必要です。


 


M&Aトラブルでお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までお問い合わせください。

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