法律Q&A

Q&A ②

事業譲渡とは?

事業譲渡は、譲渡会社が、その会社の事業の全部又は一部を譲受会社へ譲渡するスキームとなります。企業全体を譲渡の対象とするのではなく、譲渡対象となる事業を選択できることが、株式譲渡との大きな違いとなります。


なお、事業譲渡における「事業」とは、判例上「一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」であるとされています。これに該当しない場合には、単なる複数の資産譲渡及び債務引受の実行となります。


さて、事業譲渡と株式譲渡とでは、手続に要するコストの面が異なります。

すなわち、株式譲渡の場合は、株式の移転が基本的なフローとなりますので、比較的手続は簡易であるといえます。しかし事業譲渡の場合は、当該譲渡対象となる事業に紐づく全ての契約の相手方(取引先のみならず、従業員を含む場合もあります。)との間で、契約関係の承継につき同意を得る必要があります(もっとも、株式譲渡の場合も、重要なCOC条項が含まれる契約に関しては、同様の手続が必要となります)。


これらの点は、株式譲渡と比較した際の大きなデメリットです。なお、株式譲渡と異なり、譲渡代金に消費税がかかるという点もデメリットとして挙げられます。


他方、メリットとしては、簿外債務を引き継がないという点が指摘できます。株式譲渡の場合は、かかるおそれが払拭できないことから、表明保証を用いるのですが、事業譲渡の場合は、一部の事業のみをDDすれば足りますので、かかるリスクを比較的抑えることができます。

とはいえ、譲渡会社の商号を継続使用する場合には、譲受会社が責任を負う可能性がありますので、この点は注意が必要です(会社法22条1項)。


また、事業譲渡契約と株式譲渡契約の契約条項という点では、その大分部は共通しているのですが、以下のとおりいくつかの点で異なります。


まず、企業のある事業を譲渡することから、譲渡対象事業を特定する必要があります。大まかな範囲を記載したり別途協議とする場合もありますが、後日の紛争を予防するため、可能な限り詳細に定め、別紙等に明記することが望ましいといえます。


また、会社法21条1項には、競業避止義務についての規定がありますが、これは改正前商法時代から引き継がれた内容であり、時代にマッチしていないとの意見があります。したがって、譲渡会社の事業を不当に制約しないように特約を置いて、その内容(範囲・期間)を縮減することが通常です。


昨今増加している中小企業のM&Aは、事業承継を目的とする取引が多いため、事業譲渡契約ではなく株式譲渡契約が多いと考えられますが、事業譲渡に関するトラブルでお困りの方も、シャローム綜合法律事務所へご相談ください。

Q&A ②

エスクローとは?

エスクローとは、M&Aにおいて、譲渡価額の一部につき、クロージング日に買主がエスクロー・エージェント(信託銀行等)に支払を行い、売主と買主が合意した一定の期間、エスクロー・エージェントがこれを保管し、当該一定期間経過時点で、売主と買主が合意した条件(表明保証違反が発生していないこと等)が充たされたことを条件として、売主が、エスクロー・エージェントが保管していた譲渡価額残部を受領できるようにするアレンジメントのことをいいます。



このようなアレンジメントが採用される背景として、譲渡価額の一部後払いがなされるケースがあることをご説明する必要があります。すなわち、譲渡価額の全額がクロージング日に一括で支払われることが通常なのですが、時に、譲渡額の一部をクロージング日から1年経過後に支払うというような規定が置かれることがあります。これは、売主による表明保証違反や誓約違反があった場合、買主は株式譲渡契約等の規定に従って補償請求をすることになりますが、その時点で売主側において受領済みの譲渡価額が現存するとは限りません。このような売主の信用リスクを担保する趣旨で、譲渡価額の一部留保が行われる場合があります。後日、上記表明保証違反等が判明した場合、買主としては、補償請求権と支払留保した譲渡価額を対等額で相殺することにより回収を図ることが可能となるというわけです。


そしてこのような譲渡価額の一部後払いが行われることとリンクして、今度は売主側にとって、クロージング後に買主が一部後払い部分の支払能力を失うリスクに対処する必要が生じます。この買主の信用リスクを担保する趣旨で、エスクローが用いられるということになります。


もっとも、エスクロー・エージェントに対する報酬の支払が必要となりますので、当事者には追加の費用負担が発生します。


昨今の企業承継を目的とする中小企業のM&Aにおいては、このエスクローはあまり見かけないと思われます。売主がファンドである場合や、海外の法主体である場合において有用な手法と考えられます。


M&Aトラブルにお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までご相談ください。

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LOIとは?

LOIとは、Letter of Intent の頭文字を取った略語で、日本語では通常、「基本合意書」とされます。MOU(Memorandum of Understanding)と呼ばれることもあります。


M&A取引を検討する当事者が最初に締結するのはCA(秘密保持契約)ですが、同じく交渉の比較的初期段階で、この基本合意書を締結することがよく見られます。


その内容ですが(取引案件により異なりますが)、通常定められるのは、取引内容や日程についての確認条項、売主が買主に対し独占交渉権を付与する条項、買主のDDに売主が協力する義務に関しての条項です。譲渡価額が記載されることもありますが、基本合意書はあくまでも基本的な事項に関する確認書ですので、かかる譲渡価額の記載に法的拘束力はないものと解されます。したがって、基本合意書締結後に実施されるDDの結果や交渉等により基本合意書の内容が変更されたり、あるいは当該案件そのものが消滅した場合でも、相手方に対して損害賠償を請求することは困難です。ここに「困難」と述べたのは、仮に基本合意書に法的拘束力がないとしても、一度合意した以上は、それを変更するには、合理的な理由が必要であるというのが、売主・買主双方の合理的な期待であると考えられることから、あまりに不合理な理由により交渉が決裂した場合には、いわゆる契約締結上の過失が問題となる場面が出てくる可能性が否定できないからです。


いずれにせよ、基本合意書に記載されている内容は、文字どおり、M&A取引の交渉においての基本となります。それゆえ、基本合意締結の段階で、取引の条件等につき、可能な限り詳細な協議を行い、これを契約書に落とし込むことで、その後の交渉をスムーズに行うことが可能になると考えられます。


M&Aのトラブルにお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までご相談ください。


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クロージングとは?

M&Aにおけるクロージングとは、取引の実行、すなわち、株式譲渡契約の場合は、株式の譲渡と譲渡代金の支払いがなされ(これらは同時履行の関係に立ちます。)、経営権の移転が完了することをいいます。


中小企業のM&Aにおいても、株式譲渡価額は相当に高額なものとなることが通常ですので、現金で決済することは適切ではありません。通常は、M&A仲介業者やFAの店舗又は売主か買主の代理人弁護士の事務所を会場としてクロージングが実施されますが、ここに売主買主が同席の上、送金手続きを行い、着金確認と同時に株式の移転を行うということが多いです。


なお、株式移転に関して、株券発行会社であればその移転は株券の交付をすれば済みますが(株券の交付が株式譲渡の効力発生要件とされています(会社法128条1項)。)、株券不発行会社の場合には(今日ではこちらがほとんどではないかと思われます。)、意思表示のみで権利が移転しますので、クロージング時に特段の行為は必要ないということになります。

それゆえ、最終契約書には、売買代金の支払いと同時に権利が移転する旨、及び、株主名簿の名義書換を実施する旨の規定を置くことになります。


M&Aトラブルでお困りの方は、シャローム綜合法律事務所までご相談ください。

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